お侍様 小劇場 extra

    “くいしゅましゅが 来ゆのvv” 〜寵猫抄より
 


カレンダーがいよいよ最後の一枚になり、
様々な事件に翻弄された日々を振り返ったり、
それがなくとも決算目指してお忙しい世間様ですと、
TVなんかでは取り沙汰されているようだけど。

「みゅ〜んvv」
「にゃう・みぃ♪」

こちら、島田さんチのお宅では、
そういった慌ただしさとはあんまり縁がないままで。
家長様の原稿書きのお仕事も
年末進行の前倒しに急かされることなくの
とっくにしっかり済まされていて。
そこでというのも何だけれど、
12月といったらの、クリスマスツリーを引っ張り出して、
敏腕秘書殿が手際よく飾りつけをこなしておいで。
そして、そんな作業にいそしむ七郎次のお膝周りでちょこちょこ跳ね回り、
金銀の毛並みもキラキラしたモールにちょっかい出して、

「みぎゃ〜、」
「ああ、ほらほどくから待ってって。」

逆に総身へ絡まれ、助けを乞うという返り討ちにあってみたり。
そうかと思や、
天使やお星さまといったオーナメントにじゃれてみて、
チリリンとベルが鳴るのに驚かされ、

「ふぎゃっ☆」
「わ、頭打たなかったかい?」

うわっと飛びのいた先、
コタツのお布団へ後ろざまにぼすんと埋まってしまってたり。
思いがけなくもの運びだろうが、
傍から見ている分にはコントのようなすっとんぱったんを演じてくれる、
小さな仔猫さんたちなのも相変わらずで。

「毎年のことだが、にぎやかだの。」
「勘兵衛様、推敲は済まれましたか?」

まだ督促されてはいないが、連載物の次の章、
いい下りを思いついたと、一昨日から書き始めていて。
久蔵が遊びたいのにぃと書斎のドアを引っ掻くものだから、
そんな坊やの気を紛らわせようと始めた飾りつけ。
なものだから、
この騒ぎを苦笑交じりに観ていたらしい壮年様の言いようへ、
おやまあと一言申したくもなったらしいが、

「駅前の広場の大時計、からくりがクリスマスのものへ変わったらしいな。」
「ええ。久蔵やクロちゃんにも観せました♪」

まだまだ幼い小さな仔猫。
陽が落ちた街をピカピカと彩るイルミネーションの見物や
月夜の下、吐息が白くなる中へのお散歩はあいにくと出来ないから、
せめてそんな飾り物くらいは見せてやりたくて。
買い物にと出かけた折、バスケットに入れる格好で連れ出して、
大きな繁華街ほどじゃあないけれど、それでもそれなり賑やかなショッピングモールの、
クリスマスの売り出しに向けたそれ、
赤を基調にしたディスプレイの数々とか大きめのシンボルツリーへの飾り付け、
広場に据えられた大きなからくり時計の人形たちのダンスも見せてやったらしく。

「でもまあ、お人形よりウチの子たちの方が可愛かったですが。」

えっへんと鼻高々なお顔になる七郎次が思い出したのはその折のことで。
バスケットの縁へちょこりと手を掛け、
小さなミツクチを薄く開いて“ふわ〜”と見惚れる愛らしさへ、
居合わせた子供らが“わあ猫だvv”とちょっとした騒ぎになったほど。
ありゃまあと慌てて立ち去った七郎次だったが、
その場を離れてから大丈夫かなとバスケットを覗いたところ、

『みゅ・みゅう』
『にゃ〜♪』

クロの尻尾にちょっかいを出す久蔵に絡まれた格好、
お団子みたいになっちゃった仔猫二人へ、

『〜〜〜〜〜。/////////』

あまりに可愛くておっ母様が萌えてしまったのは
はっきり言っていつもの余談だったが。(笑)

「にゃんvv」

キラキラ光るグラスボール、転げていくのを追っかけて、
クロちゃんが駆け出したのを 久蔵もぴょこたんと撥ねてから追いかける。
小さな毛玉のような仔猫たちの他愛ないじゃれようだが、
久蔵の方、こちらの大人二人には小さな男の子に見えるものだから。
フローリングの上、
つるつるすべるために ややおっかなびっくりな足取りになり
ほてほてとした動作になったのが、
仔猫の姿でのとてとてという歩みに重なって。
何とか追いついた弟分がエイッと捕まえようとした金色のグラスボール、
小さな前脚からぴょんと飛び出すように逃げたのへ、

「みゃっ!」

えいやっと飛びついた久蔵の小さな手をもすり抜けたのが、
七郎次の鼻先へまで届いたものだから、

「おっと。」 「…☆」

キャッチするのへ手を上げるには微妙な間合い。
当たっても大して痛くはなかろと構えておれば、
戸口からサッと一歩ほど踏み出して来た勘兵衛が、
大ぶりの手でやすやすと受け止めてしまう。
目の前へかざされた雄々しい手や、
ひょいと掴み取った反射の鮮やかさやへ、

「……。//////////」

わあと息の飲んだ後、そのまま何だかときめいてしまった
ヲトメのような内心を押さえこむよに胸元へ手を伏せる。
そんな七郎次だったのへ、

「みゃうにぃ、みゅう?」
「あ、や。…な、なんでもないよ、うん。」

いつの間にやら駆け寄っていて、
キョトンとしたよに小首を傾げて見上げてくる久蔵。
わあとそれへもどぎまぎしつつ、
ツリーへ吊るすはずだったねじ飴みたいな斜めストライプのステッキ、
指先に摘まんだままぶんぶんと振ってしまったおっ母様なのを、

《 あれって魔女っ娘○○のまね?》
《 違うと思う…。》

そんな会話が交わされていようとは、
勘兵衛様のみ知る、長閑な師走の午後でした。






   〜Fine〜  16.12.02


 *師走ですね、クリスマスも間近ですね。
  でも、ウチはあんまり代わり映えしません。
  強いて言や、
  私の通院とか庭の整理とか
  師走に関係ないことでばかりバタバタしてます。(う〜ん)

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